平安末期の『宝物集』には、天竺(インド)の話としてこんな話が紹介されている。ある長者に“形鬼王のごとくして、色は黒雲のごとし”という醜い“下女”が仕えていた。ある日、彼女がたきぎ拾いの仕事に行くと、池の水面に“髪形鮮やか”な美しい女が映っていた。「自分の容貌は、長者の寵愛する女たちに劣らないではないか」と思った下女は、たきぎを拾うのをやめて、長者の妻子に交じって座った。それを見た長者は彼女を追い払ったので、下女は訴えた。「私の髪形を見ると長者の妻子と変わりありません。なんで長者は私に木をとらせたり水をくませたり、ぞんざいにお使いになるのです」「お前の顔は鬼のようだ。どうして美しいなどと言い張るのか」下女に問いただし、事情を聞いた長者が池に行くと、ほとりの木の上には新しく美しい死体があった。この地方には当時、死人を木の上に上げておくという風習があり、その死体が水に映るのを見て、下女は自分が美人だと勘違いしていたのだ。
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